将来のインフレに備える積立投資:大切な資産を守る方法
導入:見えない資産の敵、インフレとは
現在、多くの皆様が、低金利環境下で「預貯金だけでは資産が増えない」「将来の老後資金に漠然とした不安がある」といったお悩みをお持ちかと存じます。さらに、最近では物価の上昇、いわゆるインフレもニュースなどで耳にする機会が増えました。
インフレとは、継続的にモノやサービスの価格が上昇する現象です。例えば、これまで100円で買えていたものが110円になるような状況が、多くの品目で起こることを指します。これに伴い、お金の価値は相対的に下がります。もし、100万円を銀行に預けていても、金利がほとんどつかない状況で物価が上昇し続ければ、100万円という金額は変わらなくても、それで買えるモノやサービスの量は減ってしまいます。これは、実質的に資産が目減りしていると言えます。
特に、10年、20年といった長い期間で将来の資産形成を考える際には、このインフレリスクを無視することはできません。大切な資産をインフレによる価値の目減りから守り、将来に備えるためには、預貯金以外の方法も検討する必要があります。
そこで注目されるのが、積立投資です。積立投資は、毎月一定額をコツコツと投資していく方法であり、このインフレリスクへの対策としても有効と考えられています。
なぜ今、インフレ対策が必要なのか
日本は長らくデフレ(物価が継続的に下落する状況)の時期が続きましたが、近年はエネルギー価格の高騰や円安などの影響もあり、物価上昇が顕著になっています。日常の買い物で物価上昇を実感されている方も多いのではないでしょうか。
インフレが進行すると、同じ金額のお金で買えるものが時間とともに減っていきます。これは、将来必要となる教育資金や老後資金など、特定の目標額を設定している方にとって、その目標額の実質的な価値が目減りすることを意味します。例えば、20年後に1,000万円が必要だと考えていても、その間に年率2%のインフレが続けば、現在の価値に換算するともっと少ない金額でしかなくなってしまう可能性があります。
長期的な視点での資産形成においては、このインフレによる資産価値の目減りを補う、あるいは上回るリターンを目指すことが重要になります。低金利の預貯金だけでは、残念ながらインフレ率に追いつくことは難しいのが現状です。
積立投資がインフレ対策に有効な理由
積立投資がインフレ対策として有効とされるのには、いくつかの理由があります。
1. インフレに強い資産への投資
積立投資の主な対象となるのは、株式や投資信託などです。一般的に、企業の収益や不動産などの実物資産は、インフレ期には価格が上昇しやすい傾向があります。物価が上がるということは、企業の売上や利益も増加する可能性があるため、企業の価値も向上し、それが株価に反映されることが期待できるからです。
預貯金のように金額が固定されているものとは異なり、インフレに合わせて資産価値が上昇する可能性のある資産に投資することで、インフレによる資産価値の目減りを相殺し、実質的な価値を維持・向上させることが目指せます。
2. 長期投資による複利効果
積立投資は、毎月一定額を長期間にわたって投資を継続することを前提としています。これにより、投資で得た利益(運用益)がさらに投資に回され、新たな利益を生み出す「複利効果」が期待できます。
インフレは時間の経過とともに資産の実質価値を削っていきますが、長期の積立投資で得られる複利効果による資産の増加が、インフレによる価値の目減りを上回ることで、資産の実質的な購買力を維持・向上させることが期待できます。
3. ドルコスト平均法によるリスク分散
積立投資では、毎月決まった金額を投資するため、投資対象の価格が高い時には少なく購入し、価格が低い時には多く購入することになります。これを「ドルコスト平均法」と呼びます。
この方法は、感情に左右されずにコンスタントに投資を続けることができ、また高値掴みのリスクを抑え、長期的な平均購入価格を安定させる効果が期待できます。インフレ期には資産価格が上昇しやすい傾向がありますが、ドルコスト平均法を用いることで、市場の変動リスクを分散しながら、着実に資産を積み上げていくことが可能になります。
積立投資でインフレに備えるための具体的なステップ
インフレ対策として積立投資を始めるための、具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:目的と期間、目標額を考える
何のために(老後資金、教育資金など)、いつまでに、いくらくらい準備したいのかを明確にすることが重要です。インフレを考慮した将来の目標額を設定することで、月々の積立額や運用目標をより具体的に検討できます。
ステップ2:無理のない積立金額を設定する
家計の状況を確認し、毎月継続的に投資できる金額を決めます。積立投資は長期の継続が重要ですので、無理な金額を設定せず、他の生活費を圧迫しない範囲で行うことが大切です。
ステップ3:積立方法と金融機関を選ぶ
積立投資には、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)やつみたてNISA、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)といった税制優遇制度を活用する方法があります。これらの制度を利用することで、運用益や掛金に対する税金が優遇され、より効率的に資産形成を進めることができます。
どの制度を利用するか、またどの金融機関(証券会社や銀行など)で始めるかを検討します。金融機関によって取り扱い商品やサービスが異なりますので、ご自身の目的に合った場所を選ぶことが重要です。
ステップ4:投資対象(商品)を選ぶ
インフレ対策としては、先述の通り株式や投資信託が主な選択肢となります。特に、一つの商品で複数の資産に分散投資できるバランス型ファンドや、世界中の株式に投資するインデックスファンドなどは、初心者の方でも比較的取り組みやすい選択肢と言えるでしょう。商品の選び方については、別の記事でも詳しく解説しておりますので、そちらもご参照ください。
ステップ5:積立設定を行い、定期的に見直す
一度設定すれば、毎月自動的に積立が行われます。しかし、設定後は完全に放置するのではなく、年に一度など定期的に運用状況を確認し、必要に応じて積立金額やポートフォリオ(資産の組み合わせ)を見直すことをお勧めします。ただし、短期的な価格変動に一喜一憂せず、長期的な視点を保つことが重要です。
積立投資のリスクと注意点
積立投資はインフレ対策として有効ですが、投資である以上、リスクがないわけではありません。
価格変動リスク
投資対象の価格は日々変動します。市場全体の動向や企業の業績などによって、購入時よりも価格が下落し、元本割れを起こす可能性もゼロではありません。
元本保証ではない
積立投資は預貯金とは異なり、元本が保証されている金融商品ではありません。
これらのリスクを抑えるためには、「長期・分散・積立」という投資の基本を守ることが重要です。長期にわたって積み立てることで価格変動の影響を平準化し、複数の資産や地域に分散して投資することでリスクを低減することができます。インフレ対策だからといって、リスクの高い商品に集中投資することは避けるべきです。ご自身の許容できるリスクの範囲で運用を行うことが何よりも大切です。
まとめ:インフレに負けない将来のために、積立投資を検討する
低金利が続き、さらにインフレリスクも現実味を帯びてきた現代において、大切な資産を将来にわたって守り、増やしていくためには、預貯金だけでは心許ない状況です。
積立投資は、インフレに強いとされる資産に、長期・分散・積立という堅実な方法で投資することで、インフレによる資産価値の目減りを補い、実質的な購買力を維持・向上させる有効な手段となり得ます。
「投資は難しそう」「リスクが怖い」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、積立投資は少額から始められ、一度設定すれば自動で継続されるため、比較的取り組みやすい方法です。まずは情報収集から始め、ご自身のペースで将来の資産形成の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。