なぜ積立投資に分散投資が必要なのか?リスクを抑えるための考え方と始め方
じめに:低金利時代の資産形成と将来への不安
現在、低金利の状況が長く続いており、銀行預金だけでは大切な資産を大きく増やすことが難しい時代です。特に、40代後半から50代にかけては、退職後の生活資金やその他の将来の資金に対する漠然とした不安をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。投資に興味はあるものの、「損をするのが怖い」「何から始めたら良いか分からない」「複雑な商品は避けたい」といった理由から、なかなか一歩を踏み出せずにいる方も少なくないでしょう。
そのような中で、「積立投資」は、比較的リスクを抑えながら、時間をかけて堅実に資産を形成していく有効な手段として注目されています。毎月決まった金額を自動的に積み立てていく仕組みは、忙しい方でも継続しやすく、感情に左右されずに投資を進められるというメリットがあります。
しかし、積立投資をより堅実で効果的なものにするためには、避けて通れない重要な考え方があります。それが「分散投資」です。本記事では、なぜ積立投資において分散投資が必要なのか、リスクを抑えるための基本的な考え方と、初心者の方が無理なく始めるための具体的なステップについて解説いたします。
なぜ積立投資に分散投資が必要なのか?リスクを抑えるメカニズム
投資には、預貯金とは異なり、元本が保証されないという性質があります。つまり、資産の価値が変動する「リスク」が存在します。このリスクとうまく向き合い、コントロールすることが、資産形成を成功させる鍵となります。
分散投資とは、文字通り、投資対象を「分散」させることです。具体的には、以下の3つの観点での分散が一般的です。
- 資産クラスの分散: 株式、債券、不動産投資信託(REIT)、預金など、異なる性質を持つ資産に分けて投資することです。例えば、株式が値下がりする局面でも、債券は比較的安定している、といったように、異なる値動きをする資産を組み合わせることで、全体の値動きの振れ幅(リスク)を抑える効果が期待できます。
- 地域・国の分散: 日本国内だけでなく、先進国、新興国など、世界中の様々な地域に投資することです。特定の国や地域の経済状況が悪化した場合でも、他の地域の資産がカバーすることで、リスクを軽減できます。
- 時間の分散: 一度にまとめて投資するのではなく、複数回に分けて投資することです。積立投資は、毎月一定額を投資するため、自動的にこの時間の分散が実現されています。価格が高い時には少量しか買えず、価格が低い時には多く買えるため、購入単価を平均化する効果(ドルコスト平均法と呼ばれます)があり、高値掴みのリスクを抑えることができます。
積立投資は、この「時間の分散」を自動的に行いますが、さらに「資産クラス」や「地域・国」の分散を組み合わせることで、より強固なリスク対策となります。「卵を一つのカゴに盛るな」という投資格言があるように、一つのものに集中して投資すると、それがダメになった時の損失は大きくなりますが、複数に分けておけば、仮にその中の一つが悪くなっても、全体への影響を抑えることができるのです。
特に投資初心者の場合、特定の情報に偏ったり、感情的に売買したりしやすい傾向があります。分散投資は、このような特定の情報や感情に左右されにくく、長期的な視点で安定した運用を目指す上で非常に有効な手段と言えます。
積立投資における分散投資の基本的な実践方法
では、積立投資で分散投資を実践するには、具体的にどのような方法があるのでしょうか。投資初心者の方が比較的取り組みやすい方法としては、主に以下の2つが挙げられます。
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複数の投資信託を組み合わせる 投資信託とは、多くの投資家から集めた資金を一つにまとめ、運用の専門家が株式や債券などに投資・運用する金融商品です。投資信託一つで、既に数百から数千の銘柄(企業の株式や国の債券など)に分散投資されていることが一般的です。 さらに、性質の異なる複数の投資信託(例:国内外の株式ファンド、国内外の債券ファンドなど)を組み合わせて積み立てることで、資産クラスや地域・国の分散を図ることができます。 ご自身の「リスク許容度」(どの程度のリスクまで受け入れられるか)に合わせて、株式の比率を高くしたり、債券の比率を高めたりと、組み合わせを調整することが可能です。
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バランス型ファンドを利用する バランス型ファンドは、一つの投資信託の中に、あらかじめ複数の異なる資産クラス(国内外の株式、債券、REITなど)が組み込まれており、自動的に分散投資が行われるように設計されています。 ファンドによっては、資産配分の比率を固定しているものや、市場環境に合わせて比率を変動させるものなど、様々なタイプがあります。 バランス型ファンドの最大のメリットは、これ一本を積み立てるだけで、手軽に分散投資を実現できる点です。複数の投資信託を管理するのが面倒だと感じる方や、運用の専門家にお任せしたいと考える方に向いています。
どちらの方法を選ぶにしても、重要なのは、どのような資産に、どのくらいの割合で投資されているのか(ポートフォリオの内容)を確認し、ご自身の投資目標やリスク許容度に合ったファンドを選ぶことです。
分散投資を始めるための具体的なステップ
分散投資を実践するための具体的なステップは、以下のようになります。
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投資目標とリスク許容度を確認する 何のために(老後資金、マイホーム資金など)、いつまでに、どれくらいの金額を準備したいのか、といった投資目標を明確にします。そして、どの程度の価格変動であれば精神的に耐えられるか、といったご自身の「リスク許容度」を把握します。これにより、どの資産クラスにどのくらいの割合で投資すべきかの方向性が見えてきます。リスク許容度が高い場合は株式の比率を高く、低い場合は債券の比率を高めるといった考え方があります。
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分散投資に適した金融機関を選ぶ NISA制度などを活用して積立投資を行う場合、金融機関(証券会社や銀行など)を選び、口座を開設する必要があります。多くの種類の投資信託を取り扱っており、ご自身の目標やリスク許容度に合った分散型のファンドや、複数のファンドを組み合わせやすい金融機関を選ぶと良いでしょう。手数料(購入時手数料、信託報酬など)が低いファンドを豊富に取り扱っているかも重要な判断基準です。
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分散投資が実現できるファンドを選ぶ ステップ1で確認した目標とリスク許容度に基づき、具体的な投資信託を選びます。一つのバランス型ファンドにするのか、あるいは複数の資産クラスの投資信託を組み合わせて積み立てるのかを決めます。ファンドの目論見書などを確認し、どのような資産に分散投資されているのか、過去の運用実績はどうか、手数料はどのくらいかなどを確認します。
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積立設定を行う 選んだファンドに対して、毎月の積立金額と引き落とし日を設定します。一度設定すれば、自動的に積立が行われます。
分散投資における注意点
分散投資はリスクを抑える有効な手段ですが、いくつかの注意点もございます。
- リスクがゼロになるわけではない: 分散投資を行っても、市場全体が大きく下落するような局面では、一時的に資産価値が減少する可能性があります。分散投資はリスクを「低減」させるものであり、「なくす」ものではないことを理解しておく必要があります。
- 分散しすぎると管理が煩雑になる: あまりにも多くのファンドに手を出しすぎると、全体の状況把握が難しくなり、管理が煩雑になる可能性があります。初心者の方は、まずは少数のバランス型ファンドや、国内外の株式・債券など主要な資産クラスをカバーできる数本のファンドから始めるのが現実的でしょう。
- コストも考慮する: 投資信託には、運用中にかかる信託報酬などのコストがあります。コストが高いと、長期的な運用成果を圧迫する可能性があります。分散の度合いだけでなく、コストも比較検討することが重要です。
まとめ:堅実な資産形成のために分散投資を活用する
低金利が続き、将来への不安が高まる中で、積立投資は資産形成の有力な選択肢の一つです。そして、積立投資の効果をさらに高め、リスクを抑えながら堅実に資産を増やしていくためには、「分散投資」の考え方が非常に重要になります。
資産クラス、地域・国、時間の3つの観点で分散を行うことで、特定の変動リスクを軽減し、長期的な視点での安定した運用を目指すことが可能となります。投資初心者の方でも、バランス型ファンドを活用したり、複数の投資信託を組み合わせたりすることで、比較的容易に分散投資を実践できます。
もちろん、投資にはリスクが伴います。しかし、そのリスクを理解し、分散投資という適切な対策を講じることで、将来への漠然とした不安を軽減し、着実に資産を形成していく道が開かれます。まずはご自身の状況を整理し、一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。